REPORT
オノデラユキ『ここに、バルーンはない。』展は、これまでリコーアートギャラリーで開かれてきたエキシビションとは少し趣が異なる展示空間になっている。入り口で来場者を出迎えるのは7枚の新作シリーズ。それぞれキャンバスに風景を切りとった銀塩プリントをコラージュし、さらにその上に黄色を基色とした異形のイメージをStareReap2.5で施した作品だ。特筆すべきはその大きさだろう。長辺は約2メートル。鑑賞者の身体よりも大きい図像が7枚、円形のギャラリーの空間にあわせパノラマ風に並べられており、鑑賞者を不思議なイメージの世界へと没入させるのだ。
今回の新作について、オノデラ氏は「きっかけになったのは、偶然見つけた一枚の古い写真でした」と話す。1900年代はじめ、パリの広場ポルト・デス・テルヌスで撮られたその写真には、丸いバルーンが印象的な熱気球のブロンズ像が写されていた。パリに長く住んでいるオノデラ氏だが、この銅像を実際に見たことはない。調べてみると、ドイツ占領下だった1941年に溶かされ、現存していないのだという。「不在のもの」。「溶けて別のものに変わっていったもの」ーーオノデラ氏はそのことに想いを馳せ、ブロンズ像があった広場をフィルムカメラで撮影した。そして、そのモノクロ写真のうえに「溶けていったもののイメージ」をStareReap2.5で現出させるというアイデアに至ったという。
今回の新作について、オノデラ氏は「きっかけになったのは、偶然見つけた一枚の古い写真でした」と話す。1900年代はじめ、パリの広場ポルト・デス・テルヌスで撮られたその写真には、丸いバルーンが印象的な熱気球のブロンズ像が写されていた。パリに長く住んでいるオノデラ氏だが、この銅像を実際に見たことはない。調べてみると、ドイツ占領下だった1941年に溶かされ、現存していないのだという。「不在のもの」。「溶けて別のものに変わっていったもの」ーーオノデラ氏はそのことに想いを馳せ、ブロンズ像があった広場をフィルムカメラで撮影した。そして、そのモノクロ写真のうえに「溶けていったもののイメージ」をStareReap2.5で現出させるというアイデアに至ったという。
オノデラユキ『ここに、バルーンはない。』展は、これまでリコーアートギャラリーで開かれてきたエキシビションとは少し趣が異なる展示空間になっている。入り口で来場者を出迎えるのは7枚の新作シリーズ。それぞれキャンバスに風景を切りとった銀塩プリントをコラージュし、さらにその上に黄色を基色とした異形のイメージをStareReap2.5で施した作品だ。特筆すべきはその大きさだろう。長辺は約2メートル。鑑賞者の身体よりも大きい図像が7枚、円形のギャラリーの空間にあわせパノラマ風に並べられており、鑑賞者を不思議なイメージの世界へと没入させるのだ。
今回の新作について、オノデラ氏は「きっかけになったのは、偶然見つけた一枚の古い写真でした」と話す。1900年代はじめ、パリの広場ポルト・デス・テルヌスで撮られたその写真には、丸いバルーンが印象的な熱気球のブロンズ像が写されていた。パリに長く住んでいるオノデラ氏だが、この銅像を実際に見たことはない。調べてみると、ドイツ占領下だった1941年に溶かされ、現存していないのだという。「不在のもの」。「溶けて別のものに変わっていったもの」ーーオノデラ氏はそのことに想いを馳せ、ブロンズ像があった広場をフィルムカメラで撮影した。そして、そのモノクロ写真のうえに「溶けていったもののイメージ」をStareReap2.5で現出させるというアイデアに至ったという。
今回の新作について、オノデラ氏は「きっかけになったのは、偶然見つけた一枚の古い写真でした」と話す。1900年代はじめ、パリの広場ポルト・デス・テルヌスで撮られたその写真には、丸いバルーンが印象的な熱気球のブロンズ像が写されていた。パリに長く住んでいるオノデラ氏だが、この銅像を実際に見たことはない。調べてみると、ドイツ占領下だった1941年に溶かされ、現存していないのだという。「不在のもの」。「溶けて別のものに変わっていったもの」ーーオノデラ氏はそのことに想いを馳せ、ブロンズ像があった広場をフィルムカメラで撮影した。そして、そのモノクロ写真のうえに「溶けていったもののイメージ」をStareReap2.5で現出させるというアイデアに至ったという。
実際に、黄色い「溶けていったもののイメージ」は、オノデラ氏が自作したオブジェを熱で溶かし、その状態をカメラで撮影したイメージが素材になっているそうだ。「ものを溶かすことによって、出現するかたち。彫刻をつくるのとはまた違う、コントロールできないかたちを作品に取り入れることが今回の制作のポイントのひとつにありました。そして、それが写真の上に載った時に、たとえばアップリケを貼ったような単純なコラージュにならないようにも気をつけました。具体的には、写真から抽出した水滴や垂れている水のフォルムなどを黄色い部分の形状に移植しながら、「溶けたもののかたち」を構築するなどの手法です。溶解物が下に垂れてきているような部分をブツッと切って、デジタルの処理なんだとわかる部分をあえて残したり。作品をパッと見たとき、コラージュでもなく、全部をインクジェットやシルクスクリーンで刷ったものでもない、“一体これは何だろう”と思えるものを作りたかったんです」
実際に、黄色い「溶けていったもののイメージ」は、オノデラ氏が自作したオブジェを熱で溶かし、その状態をカメラで撮影したイメージが素材になっているそうだ。「ものを溶かすことによって、出現するかたち。彫刻をつくるのとはまた違う、コントロールできないかたちを作品に取り入れることが今回の制作のポイントのひとつにありました。そして、それが写真の上に載った時に、たとえばアップリケを貼ったような単純なコラージュにならないようにも気をつけました。具体的には、写真から抽出した水滴や垂れている水のフォルムなどを黄色い部分の形状に移植しながら、「溶けたもののかたち」を構築するなどの手法です。溶解物が下に垂れてきているような部分をブツッと切って、デジタルの処理なんだとわかる部分をあえて残したり。作品をパッと見たとき、コラージュでもなく、全部をインクジェットやシルクスクリーンで刷ったものでもない、“一体これは何だろう”と思えるものを作りたかったんです」
オノデラ氏の作品には、この新作のように事件や伝説から着想を得たものもある。たとえば、フランスでもっとも権威のある写真賞「エニプス賞」を獲得した〈オルフェウスの下方へ〉シリーズ。マドリッドのホテルで起こった失踪事件を起点にした作品だ。「確かに、ノンフィクションとフィクションが混ざり合って、架空とも現実とも言えないひとつのイメージができあがっていくことに、ずっと興味を持って制作しています。それは、写真の性質のひとつだと思いますし、そうしたことも、見る人がこの作品から感じ取ってくれたら、嬉しい」
オノデラ氏の作品には、この新作のように事件や伝説から着想を得たものもある。たとえば、フランスでもっとも権威のある写真賞「エニプス賞」を獲得した〈オルフェウスの下方へ〉シリーズ。マドリッドのホテルで起こった失踪事件を起点にした作品だ。「確かに、ノンフィクションとフィクションが混ざり合って、架空とも現実とも言えないひとつのイメージができあがっていくことに、ずっと興味を持って制作しています。それは、写真の性質のひとつだと思いますし、そうしたことも、見る人がこの作品から感じ取ってくれたら、嬉しい」
また、本展にはオノデラ氏が自らセレクトした過去の作品も並ぶ。8階には新作とともに〈ELEVENTH FINGER(11番目の指)〉シリーズを展示した。「このシリーズは、街の見知らぬ人を隠し撮りし、フォトグラムの原理で顔の部分を隠したもの。“在る”ものを隠した作品です。一方、バルーンの作品は“ない”ものを現出させた作品と言えるかもしれません。そのネガポジ逆転したような2つの作品の対比、また銀塩の純粋な写真である前者と、新しい技術を使った後者の表現のコントラストも、今回、展示として見せたかったことのひとつです」
また、本展にはオノデラ氏が自らセレクトした過去の作品も並ぶ。8階には新作とともに〈ELEVENTH FINGER(11番目の指)〉シリーズを展示した。「このシリーズは、街の見知らぬ人を隠し撮りし、フォトグラムの原理で顔の部分を隠したもの。“在る”ものを隠した作品です。一方、バルーンの作品は“ない”ものを現出させた作品と言えるかもしれません。そのネガポジ逆転したような2つの作品の対比、また銀塩の純粋な写真である前者と、新しい技術を使った後者の表現のコントラストも、今回、展示として見せたかったことのひとつです」
たとえば、写真をコラージュしたり、カメラの中にビー玉を入れて撮影したり、オノデラ氏はこれまで「手仕事による写真」にフォーカスしてきた。最後に、StareReap2.5の技術的な面白さについて問うと「わたしが向かってきた創作の方向性と、ある意味、真逆にあるものだとも思いました」と答えた。「確かに立体的で物質感のある表現ができます。でも、それは、たとえば、画家が絵の具を重ねていくような、身体性を帯びた表現とはまた違うと思うんです。ある意味、インダストリアル。それがこの技術の特徴であり面白さ。だからこそ、従来でいうところのアートとも、手でつくるクラフトとも違う、何か新しいものを生む可能性がある技術なのかもしれません」
たとえば、写真をコラージュしたり、カメラの中にビー玉を入れて撮影したり、オノデラ氏はこれまで「手仕事による写真」にフォーカスしてきた。最後に、StareReap2.5の技術的な面白さについて問うと「わたしが向かってきた創作の方向性と、ある意味、真逆にあるものだとも思いました」と答えた。「確かに立体的で物質感のある表現ができます。でも、それは、たとえば、画家が絵の具を重ねていくような、身体性を帯びた表現とはまた違うと思うんです。ある意味、インダストリアル。それがこの技術の特徴であり面白さ。だからこそ、従来でいうところのアートとも、手でつくるクラフトとも違う、何か新しいものを生む可能性がある技術なのかもしれません」
Yuki Onodera
1962年東京生まれ。1993年よりパリを拠点に創作活動を展開。カメラの中にビー玉を入れて写真を撮影したり、事件や伝説からストーリーを組上げ、それに従って地球の裏側にまで撮影に行ったり、あらゆる手法で「写真とは何か」「写真で何ができるのか」を探る実験的な作品を数多く制作し、写真という枠組みに収まらないユニークなシリーズを発表。ポンピドゥ・センターを始め、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲッティ美術館、上海美術館、東京都写真美術館、東京国立近代美術館など世界各地の美術館に作品がコレクションされている。
1962年東京生まれ。1993年よりパリを拠点に創作活動を展開。カメラの中にビー玉を入れて写真を撮影したり、事件や伝説からストーリーを組上げ、それに従って地球の裏側にまで撮影に行ったり、あらゆる手法で「写真とは何か」「写真で何ができるのか」を探る実験的な作品を数多く制作し、写真という枠組みに収まらないユニークなシリーズを発表。ポンピドゥ・センターを始め、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲッティ美術館、上海美術館、東京都写真美術館、東京国立近代美術館など世界各地の美術館に作品がコレクションされている。
Yuki Onodera
1962年東京生まれ。1993年よりパリを拠点に創作活動を展開。カメラの中にビー玉を入れて写真を撮影したり、事件や伝説からストーリーを組上げ、それに従って地球の裏側にまで撮影に行ったり、あらゆる手法で「写真とは何か」「写真で何ができるのか」を探る実験的な作品を数多く制作し、写真という枠組みに収まらないユニークなシリーズを発表。ポンピドゥ・センターを始め、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲッティ美術館、上海美術館、東京都写真美術館、東京国立近代美術館など世界各地の美術館に作品がコレクションされている。
1962年東京生まれ。1993年よりパリを拠点に創作活動を展開。カメラの中にビー玉を入れて写真を撮影したり、事件や伝説からストーリーを組上げ、それに従って地球の裏側にまで撮影に行ったり、あらゆる手法で「写真とは何か」「写真で何ができるのか」を探る実験的な作品を数多く制作し、写真という枠組みに収まらないユニークなシリーズを発表。ポンピドゥ・センターを始め、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲッティ美術館、上海美術館、東京都写真美術館、東京国立近代美術館など世界各地の美術館に作品がコレクションされている。