REPORT

現代美術家・梅沢和木は、“テン年(2010年)代の申し子”である――よくそう形容されていることについて問うと、本人は少しはにかみながら「当時のサブカルチャーには深い愛着がありますし、そのカルチャーを更新していきたいとも思っています」と答えた。



作品のベースとなる素材は、ゲームやアニメキャラクターを中心としたインターネット上にある画像や自分で撮った写真、自身の絵筆の痕跡をスキャンしたものなど。それをデジタル・コラージュし、さらに出力した紙にラメペンやアクリル絵の具で重ね、独自のイメージ世界を完成させる――こうした方法で梅沢さんが作品を発表しはじめたのも、まさに“テン年代”という言葉が定着した2008年頃だった。ちょうどtwitterやニコニコ動画がネットの上で市民権を得はじめた時代でもある。

「当時、ネットにアップされていたアニメにハマったんです。キャラクターの色彩、造形表現が新鮮で、とにかくスゴかった。画面にコメントやタグが乗っかっていくニコニコ動画やタイムラインが流れていくtwitterにも感動しました。僕の両親は作家で、絵の先生。昔から絵を描くことは好きでした。そこで“自分が愛するコンテンツのリアリティを絵画に落とし込めないか?”“ネットコンテンツの圧倒的な情報量、あるいは情報の流れを、風景のようにイメージ化できないか?”と考えたのです。そういったビジョンがこの一連の作品制作の出発点にあり、今もずっと続けていると言えますね」



以降、10年以上にわたって作品を発表し続け、国内外で高い評価を得てきた梅沢さん。基本的な制作方法は大きく変わらないように見えるが、画像を使うというプロセスが、意識的にも無意識的にも、作家本人のまなざしや意識を更新させてきたという。「ネットは社会とつながっているものですから。たとえば、東日本大震災が起きて、しばらくの間、ネットでは震災の画像ばかりになりました。そうすると、“いま自分は何を表現できるのだろう”と、気持ちや作品の背後にあるテーマは変わってくるものです。現代進行形の社会の出来事、また個人的な関心を深く考えていくと、自分の表現の問題と突き当たることも少なくありません」



今回の個展では、新しい技術との“共創”にフォーカスを当てる。会場に並ぶのは2.5次元描写技術StareReapを駆使した新作15点。展覧会タイトルの『画像・アラウンドスケープ・粒子』は、梅沢作品を象徴する3つのワードを並列させたものだと話す。素材となる画像。そしてそれが紡ぎ出す“画像の周辺にある風景”(around×scapeの造語としてのアラウンドスケープ)。粒子は、デジタル画像におけるピクセル、また世界を構成する分子や原子をほのめかす。「印刷では、それが粒子に変換され、紙に定着されるわけですが、StareReapはその精度が非常に細かいことに驚きました。均一で均等。だから数ミリレベルの厚さまで表現できるのだと思います」

またその特徴を、梅沢さんは、コーヒー豆を挽くミルにたとえて、こう説明した。「3000円代の一般的なミルと数万円もする高級ミルがあって、何か違うのか調べたことがありました。良いミルは豆を均一の大きさに挽くことができるそうです。細かければいいわけではなく、粗くて均一ならば粗挽きの味になり、細かくて均一であれば細挽きの味が出せる。粒子が均一だと、熱湯を注ぐことで起こる味や風味が、意図通りに表現しやすいというわけです。これはStareReapや印刷全般におけるインクと紙の関係に似ているのかもしれません」



実際の作品では、モチーフをレイヤー状に再構築し、平面を“立体的に”表現。丸く半球体状にインクを盛った箇所もあれば、“ピクセル”の集合体を思わせるソリッドな立体パーツも見られる。StareReapの技術者やスタッフと、打ち合わせで加えたディテールもあるそうだ。たとえば、影。「段差によってリアルな影が画面に落ちますが、それと別に、トリックアートのように影をグラフィックで描いていたりもします。試しに影をつけたときに、“めちゃ、いいじゃないですか!”となって、今回、描き入れたものですね」



凹凸だけで文様を描くような試みもあり、またどれが作家の肉筆なのか、機械が描いたのか、一見判別できないパーツもある。“デジタルとリアル”あるいは“現実と虚構”の境界に揺さぶりをかけるような表現は、梅沢さんの真骨頂でもあった。さらに、このいままでにない“立体化された画像の風景”は、また一味違う魅力を伴って、見るものの目をしっかりと画面の中に閉じ込める。
現代美術家・梅沢和木は、“テン年(2010年)代の申し子”である――よくそう形容されていることについて問うと、本人は少しはにかみながら「当時のサブカルチャーには深い愛着がありますし、そのカルチャーを更新していきたいとも思っています」と答えた。



作品のベースとなる素材は、ゲームやアニメキャラクターを中心としたインターネット上にある画像や自分で撮った写真、自身の絵筆の痕跡をスキャンしたものなど。それをデジタル・コラージュし、さらに出力した紙にラメペンやアクリル絵の具で重ね、独自のイメージ世界を完成させる――こうした方法で梅沢さんが作品を発表しはじめたのも、まさに“テン年代”という言葉が定着した2008年頃だった。ちょうどtwitterやニコニコ動画がネットの上で市民権を得はじめた時代でもある。

「当時、ネットにアップされていたアニメにハマったんです。キャラクターの色彩、造形表現が新鮮で、とにかくスゴかった。画面にコメントやタグが乗っかっていくニコニコ動画やタイムラインが流れていくtwitterにも感動しました。僕の両親は作家で、絵の先生。昔から絵を描くことは好きでした。そこで“自分が愛するコンテンツのリアリティを絵画に落とし込めないか?”“ネットコンテンツの圧倒的な情報量、あるいは情報の流れを、風景のようにイメージ化できないか?”と考えたのです。そういったビジョンがこの一連の作品制作の出発点にあり、今もずっと続けていると言えますね」



以降、10年以上にわたって作品を発表し続け、国内外で高い評価を得てきた梅沢さん。基本的な制作方法は大きく変わらないように見えるが、画像を使うというプロセスが、意識的にも無意識的にも、作家本人のまなざしや意識を更新させてきたという。「ネットは社会とつながっているものですから。たとえば、東日本大震災が起きて、しばらくの間、ネットでは震災の画像ばかりになりました。そうすると、“いま自分は何を表現できるのだろう”と、気持ちや作品の背後にあるテーマは変わってくるものです。現代進行形の社会の出来事、また個人的な関心を深く考えていくと、自分の表現の問題と突き当たることも少なくありません」



今回の個展では、新しい技術との“共創”にフォーカスを当てる。会場に並ぶのは2.5次元描写技術StareReapを駆使した新作15点。展覧会タイトルの『画像・アラウンドスケープ・粒子』は、梅沢作品を象徴する3つのワードを並列させたものだと話す。素材となる画像。そしてそれが紡ぎ出す“画像の周辺にある風景”(around×scapeの造語としてのアラウンドスケープ)。粒子は、デジタル画像におけるピクセル、また世界を構成する分子や原子をほのめかす。「印刷では、それが粒子に変換され、紙に定着されるわけですが、StareReapはその精度が非常に細かいことに驚きました。均一で均等。だから数ミリレベルの厚さまで表現できるのだと思います」

またその特徴を、梅沢さんは、コーヒー豆を挽くミルにたとえて、こう説明した。「3000円代の一般的なミルと数万円もする高級ミルがあって、何か違うのか調べたことがありました。良いミルは豆を均一の大きさに挽くことができるそうです。細かければいいわけではなく、粗くて均一ならば粗挽きの味になり、細かくて均一であれば細挽きの味が出せる。粒子が均一だと、熱湯を注ぐことで起こる味や風味が、意図通りに表現しやすいというわけです。これはStareReapや印刷全般におけるインクと紙の関係に似ているのかもしれません」



実際の作品では、モチーフをレイヤー状に再構築し、平面を“立体的に”表現。丸く半球体状にインクを盛った箇所もあれば、“ピクセル”の集合体を思わせるソリッドな立体パーツも見られる。StareReapの技術者やスタッフと、打ち合わせで加えたディテールもあるそうだ。たとえば、影。「段差によってリアルな影が画面に落ちますが、それと別に、トリックアートのように影をグラフィックで描いていたりもします。試しに影をつけたときに、“めちゃ、いいじゃないですか!”となって、今回、描き入れたものですね」



凹凸だけで文様を描くような試みもあり、またどれが作家の肉筆なのか、機械が描いたのか、一見判別できないパーツもある。“デジタルとリアル”あるいは“現実と虚構”の境界に揺さぶりをかけるような表現は、梅沢さんの真骨頂でもあった。さらに、このいままでにない“立体化された画像の風景”は、また一味違う魅力を伴って、見るものの目をしっかりと画面の中に閉じ込める。
1985年埼玉県生まれ。現代美術家。武蔵野美術大学映像学科卒業。過去の展覧会に、『LOVE』展(2013年、森美術館)、『Tokyo Pop Underground』(2019年、ジェフリー・ダイチギャラリー、ニューヨーク/ロサンゼルス)、『百年の編み手たち-流動する日本の近代現代美術』(2019年、東京都現代美術館)。コレクターも多く、また東京都現代美術館、森美術館などに作品が収蔵されている 。
www.umelabo.info

(展覧会情報)
『画像・アラウンドスケープ・粒子 Image, Aroundscape, Particle』
会期:2021.06.05 – 2021.07.03
会場:RICOH ART GALLERY
住所:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8F
休廊:月曜・日曜・祝日
1985年埼玉県生まれ。現代美術家。武蔵野美術大学映像学科卒業。過去の展覧会に、『LOVE』展(2013年、森美術館)、『Tokyo Pop Underground』(2019年、ジェフリー・ダイチギャラリー、ニューヨーク/ロサンゼルス)、『百年の編み手たち-流動する日本の近代現代美術』(2019年、東京都現代美術館)。コレクターも多く、また東京都現代美術館、森美術館などに作品が収蔵されている 。
www.umelabo.info

(展覧会情報)
『画像・アラウンドスケープ・粒子 Image, Aroundscape, Particle』
会期:2021.06.05 – 2021.07.03
会場:RICOH ART GALLERY
住所:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8F
休廊:月曜・日曜・祝日
3つの言葉を「・(中黒)」でつなぐ。中黒は美術評論家、椹木野衣の名著書『日本・現代・美術』にも使われている。「また、この中黒はゲームの技名でよく使われたりもします(笑)日本的な表現とも言えるかもしれません」と梅沢さんは明かす。
3つの言葉を「・(中黒)」でつなぐ。中黒は美術評論家、椹木野衣の名著書『日本・現代・美術』にも使われている。「また、この中黒はゲームの技名でよく使われたりもします(笑)日本的な表現とも言えるかもしれません」と梅沢さんは明かす。
梅沢さんが凹凸のパーツと高さを指示し、StareReapの技術者が“盛り具合”を調整し作品が完成していく。「僕が作ったデータの数百レイヤーを約9段階の高さに分け、それぞれの作品で指示させていただきました。そこからさらに精緻な段差がStareReapによって表現されています。」と梅沢さん。
梅沢さんが凹凸のパーツと高さを指示し、StareReapの技術者が“盛り具合”を調整し作品が完成していく。「僕が作ったデータの数百レイヤーを約9段階の高さに分け、それぞれの作品で指示させていただきました。そこからさらに精緻な段差がStareReapによって表現されています。」と梅沢さん。
会場を歩く梅沢さん。展示作品はRICOH ART GALLERY来場者のみ抽選で購入することができる。詳細はこちら
会場を歩く梅沢さん。展示作品はRICOH ART GALLERY来場者のみ抽選で購入することができる。詳細はこちら
「StareReapによって生まれる精緻な立体感や、細かいザラザラした質感は人間の手では表現が難しい。だからStareReapと人間が得意な表現と組み合わさると、新しいものが生まれる可能性があると思います」
「StareReapによって生まれる精緻な立体感や、細かいザラザラした質感は人間の手では表現が難しい。だからStareReapと人間が得意な表現と組み合わさると、新しいものが生まれる可能性があると思います」