REPORT

金氏徹平は、彫刻の新しいあり方を探求してきた現代美術家だ。
作品の素材となるのは、日用雑貨や雑誌の切り抜き、フィギュアなど。こうした日常的なイメージがはらんだモノを分解し、組み合わせ、いわゆるコラージュという手法で立体作品やインスタレーション作品を制作してきた。
大学で美術を学ぶなかで、絵の具や木材を扱うのと同じように、日用品を使って作品を作ってみようと考えたのだと金氏は話す。
「日用品は、既に用途をもって世界に存在しているもの、何らかの存在意義をもってそこにあるもの。それを素材として扱うことで、美術の内側の問題だけでなく世界と関わるというか、また、世界そのものを素材として変形させていくことができるのではないか、と思ったのです」。
金氏徹平は、彫刻の新しいあり方を探求してきた現代美術家だ。
作品の素材となるのは、日用雑貨や雑誌の切り抜き、フィギュアなど。こうした日常的なイメージがはらんだモノを分解し、組み合わせ、いわゆるコラージュという手法で立体作品やインスタレーション作品を制作してきた。
大学で美術を学ぶなかで、絵の具や木材を扱うのと同じように、日用品を使って作品を作ってみようと考えたのだと金氏は話す。
「日用品は、既に用途をもって世界に存在しているもの、何らかの存在意義をもってそこにあるもの。それを素材として扱うことで、美術の内側の問題だけでなく世界と関わるというか、また、世界そのものを素材として変形させていくことができるのではないか、と思ったのです」。
よく知られた作品は、《Teenage Fan Club(ティーンエイジファンクラブ)》。
様々なフィギュアの髪のパーツを組み合わせてできた立体作品だ。この不思議な生き物の姿をしたオブジェは、大きなライブ会場で音楽に合わせて揺れ動く観客の後ろ姿が着想源になったというが、彫刻的視点でも見ても面白い。
よく知られた作品は、《Teenage Fan Club(ティーンエイジファンクラブ)》。
様々なフィギュアの髪のパーツを組み合わせてできた立体作品だ。この不思議な生き物の姿をしたオブジェは、大きなライブ会場で音楽に合わせて揺れ動く観客の後ろ姿が着想源になったというが、彫刻的視点でも見ても面白い。
例えば、2次元のキャラクターを3次元に立体化させるというフィギュアと彫刻の関係性。また髪の毛それ自体もじつは彫刻的なモチーフであるという。
「ギリシャ彫刻でも仏像でも、髪の毛はすごく重要で、表現するのが難しいものです。《Teenage Fan Club》は、ライブ会場で生き物のように動く観客の髪や、その一瞬の状況を作品にできないかと考えたことがきっかけですが、音楽というユースカルチャーであったり、彫刻であったり、フィギュア文化であったり、いくつかの要素やアイデアが重なってできています」。
例えば、2次元のキャラクターを3次元に立体化させるというフィギュアと彫刻の関係性。また髪の毛それ自体もじつは彫刻的なモチーフであるという。
「ギリシャ彫刻でも仏像でも、髪の毛はすごく重要で、表現するのが難しいものです。《Teenage Fan Club》は、ライブ会場で生き物のように動く観客の髪や、その一瞬の状況を作品にできないかと考えたことがきっかけですが、音楽というユースカルチャーであったり、彫刻であったり、フィギュア文化であったり、いくつかの要素やアイデアが重なってできています」。
近年、金氏は舞台装置の制作や演劇作品も展開。創作の幅を拡張し、美術界以外からも大きな評価を得ている。

「美術の歴史を遡ると、コラージュという手法を突き詰めていったアーティストは過去にもたくさんいて、彼らの多くが最終的に建築や演劇に挑みました。机の上のモノや印刷物だけでなく、人間の存在や自分がいる空間もコラージュの素材として扱えないかと考えたのでしょう。僕もコラージュに取り組む中で、そこにたどり着いたというか、行ってしまったというか……」
と金氏 氏。


そして、こう続ける。
「また制作する上で、常に、自分の作品を、自分がコントロールできない要素と接続したいという気持ちがあります。すべてコントロールできてしまうと、“閉じて”しまって、つまらない。その意味でも、最もコントロールできない“他者の存在”を扱う演劇はとても有効なメディアだと思っています。同時に、この数年は、さまざまな技術をアイデアを持った人とコラボレーションし、一緒に作品を作ることも積極的にやっています。今回のリコーアートギャラリーでのプロジェクトもそのひとつです」。
近年、金氏は舞台装置の制作や演劇作品も展開。創作の幅を拡張し、美術界以外からも大きな評価を得ている。

「美術の歴史を遡ると、コラージュという手法を突き詰めていったアーティストは過去にもたくさんいて、彼らの多くが最終的に建築や演劇に挑みました。机の上のモノや印刷物だけでなく、人間の存在や自分がいる空間もコラージュの素材として扱えないかと考えたのでしょう。僕もコラージュに取り組む中で、そこにたどり着いたというか、行ってしまったというか……」
と金氏 氏。


そして、こう続ける。
「また制作する上で、常に、自分の作品を、自分がコントロールできない要素と接続したいという気持ちがあります。すべてコントロールできてしまうと、“閉じて”しまって、つまらない。その意味でも、最もコントロールできない“他者の存在”を扱う演劇はとても有効なメディアだと思っています。同時に、この数年は、さまざまな技術をアイデアを持った人とコラボレーションし、一緒に作品を作ることも積極的にやっています。今回のリコーアートギャラリーでのプロジェクトもそのひとつです」。
2.5次元印刷技術StareReap 2.5とコラボレーションした今回の展覧会では、過去の作品群をベースにした4つのシリーズと、まったく新しいモチーフの作品を展示する予定だ。前者の4つシリーズのひとつは、“Teenage Fan Club”。

これは、既存の立体作品を写真で撮り、2次元にギュッと押し込めた上で、StareReap2.5で凹凸を表現したもの。「2次元のキャラクターを3次元に無理やりにしたのがフィギュア。それを僕が無茶苦茶な組み方で彫刻にしたものを2次元化し、さらに2.5次元化しています。だから、何とも言えない存在感になってる」と率直に話す。
2.5次元印刷技術StareReap 2.5とコラボレーションした今回の展覧会では、過去の作品群をベースにした4つのシリーズと、まったく新しいモチーフの作品を展示する予定だ。前者の4つシリーズのひとつは、“Teenage Fan Club”。

これは、既存の立体作品を写真で撮り、2次元にギュッと押し込めた上で、StareReap2.5で凹凸を表現したもの。「2次元のキャラクターを3次元に無理やりにしたのがフィギュア。それを僕が無茶苦茶な組み方で彫刻にしたものを2次元化し、さらに2.5次元化しています。だから、何とも言えない存在感になってる」と率直に話す。
そして、ゴミ捨て場で拾った古い動物図鑑の写真と印刷された化粧品のテクスチャーを重ねた「Sea & Pus」。
穴の空いた板からスケールの異なるさまざまなモノが出入りしている、不可思議な状況を描いた「tower」。
さらに、カラーペンを使ってアクリル板にフリーハンドでストライプを描いた「model of something」。新しいモチーフは、ガムテープのテススチャーをスキャンし、2.5次元化したものだという。
そして、ゴミ捨て場で拾った古い動物図鑑の写真と印刷された化粧品のテクスチャーを重ねた「Sea & Pus」。
穴の空いた板からスケールの異なるさまざまなモノが出入りしている、不可思議な状況を描いた「tower」。
さらに、カラーペンを使ってアクリル板にフリーハンドでストライプを描いた「model of something」。新しいモチーフは、ガムテープのテススチャーをスキャンし、2.5次元化したものだという。
展覧会のタイトルは『S.F.』。Splash and Fragments(しぶきと破片)というと金氏 氏が選んだ2つのワードを並べたタイトルだ。
StareReap 2.5のもつ“物質感の表現力”から浮かんだ言葉だというが、“サイエンス・フィクション”を連想させるタイトルでもある。

「StareReap 2.5は2つの面白さがあると思います。ひとつは、印刷物や絵の具の物質性を含めて忠実に再現できること。つまり、本来のイメージに忠実にリアリティのある表現ができる。と同時に、ある意味、印刷物には存在してなかった立体感を、しかも完全な立体感ではなくて2.5次元という“不思議な次元”で表現することができる」。また「ある意味、フィクション性みたいなもの。リアリティとフィクション両方が同時に混在した表現ができるという意味でも、SF的」と金氏 氏。

その少し違う2つの特徴が、それぞれの作品にどう活かされているか、また、平面と立体と次元を転移させながら、どのような新しい世界を金氏は提示させるのか。それも本展の見どころだ。
展覧会のタイトルは『S.F.』。Splash and Fragments(しぶきと破片)というと金氏 氏が選んだ2つのワードを並べたタイトルだ。
StareReap 2.5のもつ“物質感の表現力”から浮かんだ言葉だというが、“サイエンス・フィクション”を連想させるタイトルでもある。

「StareReap 2.5は2つの面白さがあると思います。ひとつは、印刷物や絵の具の物質性を含めて忠実に再現できること。つまり、本来のイメージに忠実にリアリティのある表現ができる。と同時に、ある意味、印刷物には存在してなかった立体感を、しかも完全な立体感ではなくて2.5次元という“不思議な次元”で表現することができる」。また「ある意味、フィクション性みたいなもの。リアリティとフィクション両方が同時に混在した表現ができるという意味でも、SF的」と金氏 氏。

その少し違う2つの特徴が、それぞれの作品にどう活かされているか、また、平面と立体と次元を転移させながら、どのような新しい世界を金氏は提示させるのか。それも本展の見どころだ。
金氏徹平(かねうじ てっぺい)

1978年、京都府生まれ。2003年、京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。現在は、同大学で准教授も務める。日用品やフィギュアなどをコラージュした立体作品やインスタレーション作品で知られる。2011年からは舞台美術、演劇作品の制作にも携わっている。主な展覧会に『金氏徹平:溶け出す都市、空白の森』(横浜美術館、2009年)、『Towering Something』(北京・ユーレンス現代美術センター、2013年)、『金氏徹平のメルカトル・メンブレン』(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2016年)など。横浜美術館、森美術館、東京都現代美術館など国内外のミュージアムに作品が収蔵されている。
金氏徹平(かねうじ てっぺい)

1978年、京都府生まれ。2003年、京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。現在は、同大学で准教授も務める。日用品やフィギュアなどをコラージュした立体作品やインスタレーション作品で知られる。2011年からは舞台美術、演劇作品の制作にも携わっている。主な展覧会に『金氏徹平:溶け出す都市、空白の森』(横浜美術館、2009年)、『Towering Something』(北京・ユーレンス現代美術センター、2013年)、『金氏徹平のメルカトル・メンブレン』(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2016年)など。横浜美術館、森美術館、東京都現代美術館など国内外のミュージアムに作品が収蔵されている。